Posted on 2018/04/04 by KAKUKI PROJECT

デジタルファブリケーションと工務店の未来

取材:井上 貴仁(Mitaki Space Factory)
 
|ShopBot(ショップボット)
 
板から形を正確に切り出す機械です。ドリルで切り出していくので今までのNCルーターに似ていますが、より厚みのある板状のものを切り出せます。専用のCADデータに変換する必要がなく汎用CADデータで作業ができ、一般の人が容易に扱えるように開発された道具です。アメリカではすでに5000台以上が販売されていて、日本でも販売が開始されています。
 
|ものづくりにあたらしい風を
 
今回お邪魔した井上さんは日本でいち早くこのshopbotを導入した一人です。井上さんは工務店を経営していますが、一級建築士でもあり、設計から施工までを一人でマネージメントしています。いわゆる地域の工務店とも言えるのですが、先のようなデジタル工作機械の活用に関心を寄せ続け、これからの時代のものづくりの可能性を探り続けているかたでもあります。
井上さんが購入したこうした機械はデジタル工作機械と呼ばれています。最近よく聞かれるようになった、「レーザーカッター」(レーザーでアクリルや板を正確に切り抜く機械)や「3Dプリンター」(立体を樹脂などの材料で自由に作っていくことができる機械)や、NCルーター(ドリルで板を切り出していく機械)などに代表されるもので、汎用CADデータ(工場なので使う専用CADデータではなく)を使って誰もが簡単に扱うことができる機械を指します。これらの機械の特徴はデータさえあればプロでなくても同じものが簡単に加工できることです。このことによってものづくりの可能性が画期的に変わると言われています。例えば今までのように工場に加工を依頼しなくても、普段CADを使う人であれば自分自身で簡単に部材を加工することができるようになります。また誰かがつくったデータをそのまま共有することで高いレベルのデザインや加工の仕方を手に入れられることが可能になります。こうした道具の登場は人々の創作意欲に火をつけることにもなり、特にデザイナーのような自分自身では加工ができなかった人たちのものづくりの自由度が画期的に変わりそうです。
今、日本の大工は減る一方です。2010年には40万人近くいた大工は2020年には大工の数が今の半分、20万人前後になると言われており、職人不足の時代が必ず到来します。こうしたことを考えた時、デジタル工作機械を使って自分でものづくりをすることに、多くの期待が集まっているのです。
 

参考:住環境価値向上事業協同組合による「工務店経営者のための大工の育成と雇用形態」(H25年度国交省補助事業)に基づく。
 
井上さんもこうした可能性に魅力を感じ大型のデジタル工作機械を購入します。これは「ShopBot」と呼ばれるもので金額は300万円ほど、建築の加工用に長さ3mの材料が加工できる大型のタイプを採用しています。プレカット工場等でつかうものに比べたら10分の1ぐらいの低価格で購入することができます。井上さんは購入してから様々なトライアルを行います。たしかに自分で加工できるということはものづくりの可能性を広げることは確かなのですが、こうした機械で今まで工場で加工してきたものや大工さんが加工してきたものを、すべてを作れるというわけではありません。機械の特性に合わせて作り方を工夫する必要があることも徐々にわかってきます。もっとも重要なポイントは、ShopBotが板状のものを切ったり削りだしたりすることを得意とし、細長い材料の加工は得意ではありません。そのため、つなぎわせる、重ねる、という方法で、限られた寸法のものを大きなものや長いものにしていく従来の木造とは違う工夫が必要になるのです。在来木造住宅の施工がプロの大工さん達と一緒になって使い方を模索し続けているのです。
 

(キャドに出力したい製作図を入力。製作図のとおりにショップボットが稼働)

入力したデータに従ってドリルで板をくり抜いていく。板の厚みは100ミリ程度まで対応している。

製作中のものは組み立て式のスツール、写真のように板からつくることを得意としている。


 
 
|コミュニケーション・リノベーション・イノベーション
 

 
井上さんは工務店という立場を超えて地域の活性化のために、特に若い世代の小さなスタートを応援できるような場所作りをしてきました。6年前に「FunFactory」というコミュニティスペースをつくりました。若い起業家達を応援するプラットフォームをつくることで地方の都市でも魅力的な働き方ができるように考えているのです。
井上さんはイノベーションがおきるには、まずコミュニケーションが大事、そしていきなり新しいものを作るというより改良や改善を行うリノベーションを行うこと。そうすると自然にイノベーションが起きると言います。まずは人が集まり、様々な構想がぶつかり合い、刺激し合うというコミュニケーション。そしてリノベーションというものづくりの過程から生まれる様々なアイデア。そのプロセスの延長線上にイノベーションが起きるのです。確かに結果を急ごうとする時代で見落としがちなことです。井上さん自身が身体を使って物作りをしてきたことがこうした思考にたどり着いたとも言えそうです。
 
|新たなプロジェクトに取り組む
 
今取り組んでいる新しいプロジェクトは、地元にある豊川稲荷が所有する建物を改造して、起業家達が安い費用で使えるような場づくりをしています。定期的に集まり、既存の建物をどう改変していくかそのことで熱い議論がされています。イニシャルに費用がかけられない起業したばかりの人たちができるだけ自分達でつくれるような方法をShopBotをつかって考えています。材料をあらかじめ加工しておけば普通の人でも家具などを組み立てることが可能になります。場所作りから始めることで、仲間とのコミュニケーションもうまれ、また身体をつかって作業に取り込むことや自分たちで作れる方法を考え出すことは創造的な能力を自然と生み出していくのです。お寺という地域の人の心の拠り所であった場所を地域の未来にむけた場所へと変えていくことは、この場所に新しい物語をつくることになりそうです。過疎化が進む町で、そこに住む若者の未来に希望を託す場所を作ることは、工務店として家をつくる仕事以上に大切なことだと言います。
 
|お父さんの工場の再活用
 
井上さんのお父さんは自動車の部品工場を経営していました。高齢のために仕事を廃業してから、その仕事場にもう一度、工作機械をいれて、多くの人に使ってもらえるラボをつくろうと思ったそうです。ラボには学生の方など長期で滞在して物作りができるように個室やシャワーなども備えています。このように誰かと一緒にものづくりをしていく視点と、デジタル工作機械のもつ「データーをみんなで共有する」という考え方が、知恵を出し合い、一緒に地域づくりを進める場づくりにうまく符合しています。そしてなによりも井上さんの熱意に人々は動かされているようです。
 

豊川稲荷で行われているイベント「縁(en)」。ショップボットでつくる子供の遊び場。シンボルである狐をモチーフに場を盛り上げている。
「縁(en)」についてはこちら https://en-toyokawa.jimdo.com/
 

「メイカーズラボとよはし」でのイベントに出店。ここには最新のデジタル工作機が集まり、活用したものづくりが楽しめる。
 
 
|大工さんとの共同について
 
デジタル工作機械には、いつの日か職人に変わって、機械で簡単にものが作れるのではないかという希望はあります。しかし井上さんは実際に使ってみて、そうはならないだろうと言います。道具によって出来上がるものも違ってくることがわかってきています。今までのかたちにこだわるのなら、やはり今までの仕組が必要です。そこで井上さんはそうした職人の対極にある合理化を目指すのでなく、最終的には大工さんが自ら使いこなし、職人の技術と新しいテクノロジーが融合して、さらにはそこにより創造的な仕事が生み出されることを望んでいます。今は大工さんが自分でやるには少し面倒な板のくりぬき作業のようなものに多く使われるそうですが、まずはこうした機械に興味を持ってもらうことから始めているといいます。大工さんがいなくなる時代に備えるのでなく、大工さんがこうした道具を持ちながらより自由な創造性の高い仕事ができるようになることを目標としているのです。また大工さんという職人の人たちだけでなく建築家やクリエータも自ら作ることの領域に関わることで、建築の考え方や作り方も変わる可能性を秘めています。デザインする人と作る人という近代化の過程で分業化されてきたことを、デジタル工作機械をつかって融合できるような可能性に挑戦しているのです。
 

 
|これからのこと
 
井上さんはこれからもこうした活動を自分のビジネスの枠組みを超えてチャレンジしていきたいと言います。場をつくり、人のつながりをつくって、若い起業家をサポートして行くという井上さん。未来に向かって、あらたな仕事や産業を生み出していくことは、一人でも多くの人が自らの幸せを獲得してほしいという思いなのです。今後本も書きたいと言っていました。ビジネスとして儲かるような活動ではありません。しかし自分たちの活動を記録しつづけ、よい事例を少しでも生み出せればそのあとに続く人が出てくるに違いないのです。
地道に淡々と様々なことに取り組む井上さんの真摯な姿勢と、そこから発する謙虚な言葉が深く印象に残った取材でした。今後も彼の活動に注目していきたいと思います。


(右が井上貴仁さん、左が奥様の井上暁子さん)
 
プロフィール
井上 貴仁inoue takahiro
建築家 / コミュニティデザイナー
1972年 愛知県豊川市に生まれる
1995年 中部大学 工学部 建築学科 内藤研究室 (意匠、都市計画系) 卒
地元設計事務所にて修行の後、2001年Mitaki Space Factory 1級建築士事務所を開設し設計事務所が住宅や店舗の設計施工を行う工務店スタイルを確立。各種まちづくり団体に所属し、その経験を基に2012年コミュニティカフェFunFactoryをOPEN。2015年には父親が40年けた町工場を「デジタルDIY工房 GIFT」へとリノベーションし、導入したCNCカッティングマシーン(shopbot)を見学に県内外から人が訪れている。
 

Mitaki Space Factory
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